糖尿病

 

体を作っている細胞が糖をきちんと取り込めなくなる病気です。
このような異常がおこると血中の糖の濃度があがり、体にさまざまな異常が生じます。
この病気になると、尿に糖が混じる事からこの名があります。

さまざまな年齢のネコがこの病気になりますが、とくに10才以上や
太ったネコがなりやすいようです。
ネコが糖尿病になったら、薬を与えたり食事のカロリーを制限して、
糖尿病が悪化しないようにします。

ネコはしばしば食べ物の好き嫌いがはげしいので、食事や薬の与え方は
それぞれのネコにあった方法を見つけなくてはなりません。

長期にわたる看護が必要になるので、飼い主がこの病気を十分に理解することが大切です。
糖尿病を放置すると、病気が悪化して「ケトアシドーシス」という状態になり、
命が危険になることもあります。

症状としては元気がなく、水を良く飲むようになり、ひんぱんに尿をします。
また食欲が旺盛でたくさん食べるのにあまり太らないことがあります。

症状が進むと、吐いたり下痢を起こす事もあります。
こうなると元気がなくなり、食欲も失われて痩せていきます。
寝ている時間が多くなり、衰弱していきます。

また白目の部分や唇の粘膜が黄色っぽくなる黄疸症状がみられたり、
膀胱炎などの感染症をおこすことも少なくありません。

ネコが吐く、脱水をおこすなどの症状を見せるときには、ケトアシドーシスの状態に
なっていることが少なくありません。
これは、血液中に「ケトン体」とよばれる有害物質が混じった状態です。

ケトアシドーシスになったらただちに治療しないと、ネコは昏睡状態になり、
ついには死んでしまいます。
糖尿病を放置するとケトアシドーシス以外にも、腎臓に障害が出る、
目がにごって白内障になる、などの合併症が現れます。

また糖尿病のネコは脂肪肝の一種である肝リピドーシスという病気を
おこしていることも少なくありません。

よく水を飲み、よく尿をする、よく食べる、というのは人間やイヌでは糖尿病の典型的な
症状ですが、ネコが糖尿病になったら必ずこのような症状が現れるわけではないので、
注意が必要です。

糖尿病となる原因としては次のような事が考えられます。

●肥満
太ったネコは糖尿病になりやすいといえます。
これは人間と同じく、肥満すると細胞がインスリンに対して反応しにくくなるためです。

●ストレス
ネコの場合、精神的なストレスを感じた時にたいへん血糖値があがりやすいようです。
このような高血糖症はネコがもともと肉食であり、糖や炭水化物(分解されて糖になる)
を栄養としてあまり使っていないことに関係しているとみられています。
ふつうは一過性なので、ネコのストレスの原因を早めに取り除けば治ります。

●薬の投与
副腎皮質ステロイド薬や黄体ホルモン、利尿役、心臓の薬、抗けいれん薬
などは、インスリンの働きを弱めたり、その分泌をおさえたりします。
そのため、糖尿病を引き起こす事があります。

●病気
すい臓が炎症をおこしたり、すい臓に腫瘍ができるなどして糖尿病になることがあります。
感染症などの病気も糖尿病を引き起こしやすいようです。
そのほか、ネコ自身の免疫が異常になり、インスリンを出すすい臓の細胞(ベータ細胞)
を破壊するという意見もあります。

●その他の原因
親から遺伝する先天的な原因、あるいは妊娠・発情なども、ネコの糖尿病の原因になると
みられます。

治療では、ケトアシドーシスをおこしていなければ、食事のカロリー制限とインスリンの投与
を行います。
治療の方法は個々のネコにあわせて決めます。

ネコがケトアシドーシスをおこしているときには、入院して緊急治療を行わないと、
すぐに生命が危険になります。

■ケトアシドーシスの治療
脱水症状を治し、体内のミネラル分を調整するために輸液を行います。
また効き目の早いインスリンを与え、血糖値を下げると共に体内でケトン体が
つくられないようにします。
血液中のケトン体の濃度が下がり、ネコの状態が快方に向かったら、
ふつうの糖尿病の治療を始めます。

■食事療法
肥満しているネコは食事を管理して少しずつ体重を減らします。
一日あたりのカロリーは、理想体重(キログラム)×50〜70キロカロリーを目安にします。
食事はできれば繊維質が多いものにし、食事の回数も一日に3〜4回に増やします。
これはカロリーを制限するだけではなく、食後にいっきに糖の濃度が高くならないように
するだけではなく、食後にいっきに糖の濃度が高くならないようにするためです。
ネコに炭水化物を与えると糖尿病が悪化するので、与えないようにします。

なかには、好き嫌いが激しく、繊維質が多い食べ物を食べようとしないネコもいます。
しかし、肥満したネコが食事をとらないと、肝リピドーシスという重い病気になる
ことがあります。
またインスリンの投与を行っているときに食事をとらないと低血糖になり、
ふらついたり意識を失うなどたいへん危険な状態になります。

そこで糖尿病のときには、良質のタンパク質を加えた食事と、
ネコが必ず食べる食べ物を選んで与えるようにします。
ネコがやせているときには、はじめは高カロリーの食事を与え、その後、
徐々に繊維質の多い食事に切り替えます。

■インスリン療法
インスリンの効き方は個々のネコによって違います。
また好き嫌いがあったり、食事の取り方も、数回に分けて食べたりと個性があります。
そこでインスリンの種類や与え方は、個々のネコの食事の習慣や、どんな食事療法を
行うかにあわせて決めます。
このとき、飼い主の生活に無理のない範囲で治療法を決めないと長続きしません。

ふつうは一日に1〜2回インスリンを注射します。
そのごすぐに食事を与えます。
また、インスリンの効き目が最大になる時間にあわせて次の食事を与えます。
ネコの場合、ストレスの原因を取り除いてやり、体重の管理をきちんと行えば、
インスリンを投与する必要がなくなるともあります。

■その他の薬剤
すい臓に働きかけて、インスリンの分泌をうながす薬もあります。
海外ではこれは糖尿病のネコの1/4に効果があるという報告があります。
しかし、吐き気がおこる、肝臓病になるなどの副作用が強いため、
長期にわたっては使用できず、この薬は使うべきではないという考える獣医師もいます。

■低血糖の治療
インスリンを誤って余分に与えてしまったり、
インスリンを注射したのにネコが食事をとらなかったりすると、
ネコは低血糖症になります。

このときネコは歩き方がふらついたり、ぐったりして動かなくなります。
けいれんをおこすこともあります。

これは生命に関わる緊急事態なので、急いで砂糖水や甘いシロップを口から注ぎ込んで
飲ませ、すぐに獣医師に連絡をします。
ぐったりしているときには頬の粘膜にシロップをすりこみますが、
けいれんを起こしている時には、無理に何かを飲ませたり、指を口に入れたり
しないでください。

■運動療法
ネコに運動による体重管理を行わせることはできません。
というより、無理に運動させると強いストレスになり、
かえって糖尿病を悪化させます。

しかし屋内だけで暮らすネコは飼い主が遊ぶ時間を増やすなどしてストレスを
与えないような形で自然に運動させると良いでしょう。

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